ダッタン人ふうの別れの挨拶

 「文学界 2010年10月号」(文藝春秋社 刊)には、いくつか面白そうなものが掲載されていましたが、今日は、椎名 誠の『ダッタン人ふうの別れの挨拶』を読んでみました。

 主人公の松原君は、東京オリンピックの年、ある金属加工会社にアルバイトで働いており、同僚の部屋に居候しています。

 側のないテレビを同僚が手作りし、オリンピックの放映を見ようとしますが、故障で、絵がでなくなってしまいます。

 かつて、ボクシングを一緒に練習していた仲間が、オリンピックにでるということで楽しみにしていたのですが、結局試合は見ることができないという事になってしまいます。

 そんな、アルバイト漬けの日常の中に、納品先の事務の女性(名前を海といいます)と知り合い、冒険を夢見る波長が合い、恋愛へと発展していくことになります。

 はじめて、デートをした帰り、彼女から”ダッタン人の別れ方をしよう”と言われ、ダッタンってどこだか分らないまま、腕と腕を交差させたのち、手をたたき合うという事をして分れます。

 ”ダッタン人の別れ”って、これが最後の別れではなく、また会いましょうという意味なんだそうです。

 しばらくして、主人公は、飲み屋で言いがかりをつけられたヤクザと思われる人間とケンカになり相手を打ちのめしてしまい、警察沙汰になります。そんなことで、アルバイト先を首になってしまいます。

 それから、いくつかのアルバイト先を転々とすることになります。

 そのアルバイト先の一つに、湯煙新聞というのがあり、毎日のように3行広告で社員を募集していて、そこを応募することになります。

 面接に行ってみると、それは、東京の温泉施設の情報誌を1万円で売るという仕事なのでした。

 早速、旅費交通費1,000円を持たされ熱海に行って、旅館を当たりますが、なかなか売れないので、一緒に行ったやつと知恵を出し合い、何とか1冊売りあげることができたのでした。

 この湯煙新聞って、もしかしたら、神田の温泉新聞社からイメージしていないかなぁと言う気になりました。

 私も、何度、この温泉新聞社に応募しようかと迷ったことがあります。しかし、本当に、しょっちゅう募集広告を出していたので、何か怪しいなと思って応募しなかった会社ですが、もしかしたら、主人公のような販売をさせられたかもしれないなぁと思いだしてしまいました。

 時は流れ、とある会社の取締役になっている主人公は、執筆活動も行っており、それが当たってしまいます。羨ましいですね。

 会社を辞め、数人で日本の真裏の島を取材するという企画に応募します。

 実は、かつての恋人と結婚し、2児をもうけていた主人公は、出かける間際、妻の異変に気がつきます。

 売れっ子になっていた主人公への執筆依頼やら昼夜を問わぬ電話などの応対で、少し精神的におかしくなっているのでした。

 自分の夢に近い事を行える主人公、2児の面倒を見ながら働いている妻、ちょっと短いページ数なので、その途中関係が分らないのですが、この取材旅行が、ダッタン人の別れになるのか、永遠の別れになるのか、考えさせられました。


文学界 2010年 10月号 [雑誌]
文藝春秋
2010-09-07

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